グローバル教師と地球の子ども達

30カ国以上の子ども達を、アジアとヨーロッパのインターナショナルスクールで教えた教師が考える。これからの時代の教育とは?教師とは?子育てとは?

バイリンガルであることは本当に「利点」なのか?

今の日本にこう問うた場合には、間違いなく皆が「もちろん有利に決まってる!」と言うでしょう。語学の習得は早ければ早い方がいい!と思われています。
 
しかしながら、つい最近までは、「あまり早期に外国語を取り入れることは、考える力に悪影響を及ぼす」と考えられていました。母国語で深く考える力がつく前に他の言語も使うようになると、言葉に対する集中力が散漫になり、結局物事が深く考えられないようになってしまうという説が有力でした。90年代まではそういう流れだったのです。この時期の日本はまだ、バイリンガル教育熱も一般社会にはなく、帰国子女のキャスターが特別扱いでテレビに出ていましたっけ。
 
2000年代に入ると、世界ではバイリンガル教育が教育界の話題のトップに上るようになりました。バイリンガルであることが、脳への刺激になり、創造性の育成によいとされたのです。2つの言語を操ることで生まれる多様性が、思考力を養うと考える人もいました。また異なる言語文化に触れることは、国際的な寛容性にもつながるとも言われました。
 
 
わずか10年で全く違う学説が打ち出されるバイリンガル教育問題。もちろん現在も研究も実験も数多く行われています。いったい何を信じていけばいいのか、悩むところですが、最新の説は…
 
「個人の能力と経験、学習内容、またその言語の特徴による」
 
というものです。いや、これって実に当たり前のことに聞こえますが、重要な部分は、「押し並べて共通の教育が通用するわけではない」ということなんです。教育界にとって、特に国や地域の教育を考えた時には、これは大きな課題になります。
 
 
バイリンガル教育への流れには、世界の経済の流れも影響しています。実は現在最もバイリンガル教育に鼻息を荒くしているのは、英語スピーカーであります。世界経済の軸が中国に移っていくことが確実になるため、これからは中国語が必須になってくると考えているからです。
新しいインターナショナルスクールはこぞって、中国語の学習ができることを強調します。NYにできたセレブ学校もそうですね。でも、日本の私立学校で、「中国語とのバイリンガルです」とうたう学校は、どの位あるでしょうか?
 
日本では「バイリンガル」ときくと当然のように「英語と日本語」と皆が思うのではないでしょうか。でも、それは偏見とも言えませんか?それに、先に述べた利点を考えると、果たしてそれがベストな選択なのか?とも思えてきます。意味が分かりやすい中国語、日本語の単語もまじる韓国語、意外と身につきやすいと言われるインドネシア語(こちらも大いに経済力をつけてきてる国ですね)などを学べる機会や機関がもっとあってもいいんじゃないかと思うのに、英語、英語と子どもの頃から範囲を狭めてしまうのは勿体無い。
また、世に出ているバイリンガル教育研究は、多くが英語スピーカーのものです。つまり、英語という言語文化を通すということが前提であり、必ずしも全てのセオリーが我々日本人に通用するものとは言えませんが、それでも「バイリンガル教育」という表面だけ捕まえて論じる専門家の多いこと。そしてそれを利用して世の親たちを煽る輩の多いこと。
 
これからもきっと、あらゆる説が生まれ消えていくことでしょうが、それが繰り返される程、個々人が言語文化をどう考えるかというものに集約されていくのではないかと思います。そう見据えると、それぞれがどこに言語の軸を置いたらいいのか見えてくるのではないでしょうか。
 

http://www.newyorker.com/science/maria-konnikova/bilingual-advantage-aging-brain