グローバル教師と地球の子ども達

30カ国以上の子ども達を、アジアとヨーロッパのインターナショナルスクールで教えた教師が考える。これからの時代の教育とは?教師とは?子育てとは?

思考力とデザイン

思考力、と一概に言ってもそれをどのように測っていくのかは難しいです。そもそも、考えるという作業はいったいどういうことなのかということに遡っていかなければなりません。
 
近年の教育の場では「思考」をいかに目に見えるものにしていくかという様々な研究が進んでいます。「思考の可視化」というものです。
 
思考の可視化において、ハーバード大学プロジェクト・ゼロの取り組みは教育界でたいへんポピュラーです。私は国際バカロレアを教えていますが、IB校で教える教師は非常に多くこのメソッドを使用しています。今や、「プロジェクト・ゼロの思考の可視化をクラス内で取り入れております」というアピールは転職活動にも大いに役立ちます。一昨年は校内研修でこれを扱い、小学校部あげてこのメソッドで授業を進めていくことになりました。

http://www.visiblethinkingpz.org/VisibleThinking_html_files/VisibleThinking1.html

”Making Thinking Visible”
Making Thinking Visible: How to Promote Engagement, Understanding, and Independence for All Learners (Jossey-Bass Teacher)

Making Thinking Visible: How to Promote Engagement, Understanding, and Independence for All Learners (Jossey-Bass Teacher)

 

メタ認知的に思考することでより深い思考力を培うことができる。このことは認知心理学が起こったころから理解されていたのではないかと思うのですが、内在化する思考を可視化することは、そのメタ認知をわかりやすくすることです。

このメソッドでは、そのやり方を普段の授業やクラス活動でルーティーン化することで、子ども達がより「思考する」ようになるというものです。

 

思考の可視化には実に様々な方法があるのですが、ともかく、自分の考えをまず出してみるというBrainstormという作業が、まず思考の作業の始めには必要になってきます。思いつき、とも言えます。

大人も子どもも、日常何気なく過ごす中で何かを思いつくことは結構たくさんあります。「おや、今年は紅葉が早いなあ、どうしてかな?」なんて疑問も思いつきの1つです。

この思いつきがたくさん集まってくると思考を始めるチャンスです。あちこちに散在しているいろんな思いつきを、つなげたり、並べ替えたり、はたまた削除したり、大きくしたり、そういう作業が思考なのです。そう聞くと、どこかデザインと似ているような気がします。

 
デザインを幼児期の教育に取り入れることは、思考の可視化を促す第一歩になるのだと考えます。ということは、デザインは思考力を育てるということと言えます。
アートの中のデザインは、幼児にとっては実にわかりやすい思考の可視化の形です。アートを通して思考力を養う、という活動が数多く行われている所以です。(レッジオ・エミリアが有名になったのも、プロジェクト・ゼロがこの点に関心を寄せて共同研究をおこなったからと言われています)
まだ自分の考えを言葉で明確に表現することが難しい年頃では、色や形、イメージをつかっての表現が最も有効な手段です。「こんな感じ」「〜みたいな色」というメタファーは、既存の知識と新しいアイディアを結びつける重要な要素になり、その要素を配置していくあそび=デザインが子どもにとって思考力をはぐくむ行為であると言えるでしょう。
そして、デザインが具現化したとき、つまり思考が可視化したときには、改めて自分の思考を見つめ直す行為へとつながっていくのです。この繰り返しが積み重なって、思考力を確実なものにしていくと言えます。
 

ふと思うのが、では大人の我々は日頃深く思考しているか?ということです。
溢れる情報に振り回されたり、見かけだけの刺激に惑わされたりしていないか?
我々も、思考を可視化するクセをつけることから始めなければならないようです。