グローバル教師と地球の子ども達

30カ国以上の子ども達を、アジアとヨーロッパのインターナショナルスクールで教えた教師が考える。これからの時代の教育とは?教師とは?子育てとは?

男は黙って?

Rは韓国と日本の両国籍をもつ男の子。
幼稚園の担任からの申し送りでは「シャイ、少々怒りっぽい」とありました。確かにあまり英語ができなかったということと、どちらかというと「男は黙って」という高倉健タイプの男児なので、自分から積極的に話すことはありませんでした。
でもそんなに怒りっぽいかなあ、と私は疑問に思っていました。
極めてアジアな顔つきのため、静かにしている時もむすっとしているように見えるのがそのせいなのかと、始めは結論付けていたのですが、時間が経ち、それ以外にも「怒りっぽい」と言われてしまう所以が見えてきたのです。
 
それは、言葉。いや、話し方、といったほうがいいかもしれません。
 
英語が達者でないので、どうしても話すときは単語を発することになります。宿題をもらう時も、手を出して、「homework!」と言ってしまいます。さらに、母語の発音から語尾が強くなりがちで、それが「怒った話し方」に聞こえるのです。
怒った話し方だと、当然相手も気分を害しやすい。だから真意が伝わりにくくなる。そして、本当にRは終いにはイラついているようでした。余計に何も言わずに黙り込むようになりました。
 
何とかならないものかと思っていたところ、ある絵本を彼が気に入っていることがわかりました。
「There was an old lady who swallowed a fly」
一度クラスに読んであげて、絵本を教室においてあったのですが、リーディングの時間が始まると彼はいつもいそいそとその本をとりに行き、ニヤニヤしながら読んでおりました。そのナンセンス&グロな内容が面白かったのでしょう。
実はこれは子ども向けの童謡を絵本化したものでした。だから、ある日リーディングの時間に、彼にヘッドホンでその歌のCDを聞かせてあげることにしました。
すると、それから毎日絵本を読みながらそれを聞くようになり、2週間くらい経ったころでしょうか、合わせて小さな声で歌っているのが聞こえるようになりました。
リーディングの一環として「お友達に読みきかせ」という時間を設けているのですが、ついに1ヶ月もたつと彼はその絵本を友達に見せながら歌えるようになりました。
 
それから、彼の普段の話し方が変わっていったのです。
言葉を発するときに、単語と単語をスムーズにつなげるようになりました。語尾の強さがとれました。歌の効果です。
でもおそらく一番の理由は、自分が歌いながらお気に入りの本を読むことで、相手がにこにこと楽しい気分になっていることを感じたところでしょう。歌を歌う時に自然と優しくなっている声色そのままで話をすれば、相手は気分を害さないし、自分の言いたいことも伝わりやすい。そんなことを体感したのではないでしょうか。
 
シャイなRはみんなの前で歌うのが大好きになりました。